人に語りたくなる怖い話

趣味で集めた怖い話・怪談のご紹介と、話の理解や語り方について深めていくための分析録を記しております。

第4話『作り話』- 考察と語り方

電灯の下の女
【目次】

 

概要

語り尺  :短い(2分程度)

知名度  :非常に有名(『人志松本のゾッとする話』にてOA)

難易度  :初級

主な話者 :なすなかにし 中西茂樹

 

本文

これはある男性Aさんが実際に体験したという実話怪談です。

 

Aさんは寒い冬のある日、男女6人で飲み会をしていました。するとその会の中でふと、1人1話ずつ怖い話をしていこう!と、それぞれの知っている怪談を順番に話していく流れになったんだそうです。

 

何人かが話し終えて、ついにAさんの番が回ってきました。ですがAさんは怪談話に疎く、この流れで話せるようなネタがひとつもなかったんだそうです。

 

しかしここで「ごめん、話せるネタがない」と白状しても場が白けてしまうと考えたAさんは、今思いついたテキトーな怪談を話すことにしたのです。

 

その話はというと、「ここの近所の駐車場で昔焼身自殺があった。そこには霊がでるという噂がある。」という、それらしい内容のもの。

 

すると、その話を聞いたみんなは「うわ、気持ち悪い」「私その場所知ってる」など思いのほか良いリアクションで、何とかその場を凌ぐことができたんだそうです。

 

飲み会が終わって、Aさんは1人歩いて帰路につきました。すると向こうの方から女の人が歩いてくるのに気付いたんだそうです。よく見ると冬場なのに何故か薄着で、どことなく変わった人だなという印象でした。

 

Aさんと女の人がすれ違うちょうどその時、女が突然「あの、」と声をかけてきたんだそうです。怪談話をしてきた後ですし、夜中に声をかけられるだなんて想像もしていなかったAさんはとても驚きました。

 

話を聞いてみると、どうやら道を尋ねたかったようなのですが、女が知りたいというその場所は、先程の飲み会でAさんが話した「あの駐車場」だったんだそうです。

 

Aさんはさらに驚きましたが、「気味が悪いけど、たまたまだろう」と駐車場までの行き方を伝えました。すると女は「ありがとうございました」と言って、伝えた方向へと歩いていきました。

 

Aさんは足早にその場を去ろうと歩き始めましたが、背中からまた「すみません」と声がしました。Aさんがびくっとしながらも振り返って「何ですか?」と答えると女は最後にこう言ったんだそうです。

 

「さっきの話、私のことですよね?」

  

前提・豆知識

なすなかにし 中西茂樹

『人志松本のゾッとする話』にて怪談芸人としての知名度を上げたと言っても過言ではない、なすなかにし中西茂樹氏。今回取り扱った「作り話」の他にも筆者のお気に入りはいくつかあるのですが、「カラオケバイトの面接」が有名どころでしょうか。他の怪談芸人と比べて、オチまで最短ルートで進むような短編が多いのが特徴です。怪談を話し慣れていない方でも真似しやすいものが多いと思いますので、いくつか覚えてみると良いでしょう。

 ↓こちらが今回のお話のTVOA版です。タイトルは「友人のウエダくん」

 ↓こちらはより話が整理された別企画のもの。余計な編集が入っているせいで怖さが半減しているため、始めて観る方は上記のものから観ることをおすすめいたします。

 もちろん芸人としての本分、漫才も面白いですよ。

分析・考察

皆様の中には「これはさすがに実話じゃないんじゃ…」と思っている方がいるかも知れません。(実をいうと筆者もその一人だったりします。。)しかし、これはあくまで「怪談」です。このお話が事実だったらと思うとゾクゾクわくわくしますし、そこを議論するのは野暮というものなので、誰かにお話する際は当然「これは実際にあった話らしいんだけど...」として語り始めてください。

筆者の意地悪な予想としては、事実+妄想によって生まれた怪談なのではと勘繰っており、事実に基づいた恐怖の種とそこから発生した恐怖の飛躍を以下のように分析してみました。

【事実】

  • 飲み会でテキトーな怖い話をして何とかその場を凌いだ。
  • 飲み会の帰りにちょっと変な雰囲気の人とすれ違った。
  • 恐怖の種:怪談を話した帰り道だったのもあり少し怖く感じた。

【妄想】

  • 恐怖の種:変な人だったな、話しかけたりされなくてよかった。
  • 恐怖の種:例えば急に道を聞かれたりとか。
  • 恐怖の飛躍①:もし聞かれた場所が何故か「あの駐車場」だったとしたら?
  • 恐怖の飛躍②:もしあの人が実は自殺事件を知ってて聞いてきたとしたら?
  • 恐怖の飛躍③:もしあの人が自殺した本人だったとしたら?

いかがでしょうか。ちょっとしたエピソードが怪談として成立するまでを独断と偏見で推測してみました。今回の予想は少しやり過ぎかもしれませんが、怪談に限らず人から人へ伝わる話には尾びれ背びれが付いていくものです。全ての怪談は人がより恐怖を感じる形に多少なりとも変化していっているはずなので、自分のお気に入りの怪談がどのような恐怖心に呼応して飛躍していったのか、一度考えてみると面白いかも知れません。

この話の生まれはさておき、筆者がこの怪談をテレビで観た当時「作り話のつもりが事実だった」というオチの仕組みがとても斬新に感じた記憶があります。今でこそ、この手の話はいくつか見つかるのかも知れませんが、この尺の短さキレ味の良さ、そしてありそうでなかったオチの組み合わせが、お気に入りの理由です。

語る際のポイント

有名な怪談を語る

知名度の高そうな怪談を披露するときは語り出しに注意が必要となります。本やネットで調べたものはもちろんですが、テレビで観たような話は特に気を付ける必要があります。

例えば今回のお話をテレビで知ったとした場合、語り出しでは必ず「中西っていう芸人がテレビで話してたんだけど」などとネタ元を明かすようにしてください。誰が話していたものか思い出せない場合は、メディア(TVで観た、YouTubeで観た等)だけでも良いかも知れません。

怖い話というのは色々なコミュニティを横断しながら巡り巡っているものですので、自分がいくら「初めて知った!」と思うようなものであっても、大抵誰かが先に観ていて誰かが先に語り始めています。間違っても自分や友だちの体験談などと偽ることはせずに、「仕入れた怪談を紹介する」ぐらいのテンションで臨むようにしてください。

こうやって説明すると「有名な怪談を人に語っても面白くない、効果がない」と思うかも知れませんが、実はそういう訳でもありません。怖い話というのは、話の要素や構成だけではなく、その話を誰が、どういう話し方で、どんな時に、どんなメンバーに対して語るかまでがセットでひとつのパッケージになる筆者は考えております。極端なことを言えば、語り手や聴き手が元ネタの時と異なるのであれば、それはもう別の怪談になると考えて構わないとすら思います。

現に前提・豆知識の項でご紹介した中西氏の動画ですが、同じ話(構成もほぼ同じ)でも「ゾッとする話版」の方が怖いと感じませんか?ふたつの映像を比べると以下の点に違いがあるように感じます。同じ怪談を話しても、周りのメンバーのリアクションや、場の雰囲気との相性、語り口やテンポが変わるだけで話の印象が大きく変わってくることがおわかりいただけるかと思います。

ゾッとする話版 vs 怖い話決定戦版

  • 聴者 :あり vs なし
  • 速さ :テンポよく vs じっくりと
  • 語り口:飄々と vs 怪談っぽく
  • 編集 :なし vs あり

実際に語り出してみて、その場の聴者全員が冒頭からオチまできっちり全てを覚えているというような場合は、流石に他のネタをセレクトしたほうが良さそうですが、大抵の場合そんな状況にはなりません。「それ知ってるかも」という方が混じっている程度であれば、「知っていたのに怖かった」と言わしめるよう、気持ちを込めて語りきってしまいましょう

怖い話というのは、想像以上に語り手(声、顔、表情、背丈、キャラクターetc)と話の内容の相性が重要になってきますので、もしかすると元ネタ以上に、話を借りた皆様の方がフィットするということも十分にあり得るのです。

 

話の構成、使い方

基本的には余分な描写がほぼ無い構成になっているので、上記のまま語っていけば問題ないかと思います。強いて注意点を挙げるとすれば、フリの段階で「駐車場での焼身自殺者」の性別を明らかにしないようにしましょう。(「女の焼身自殺があった」「女の霊が出る」などと言わない)勘の鋭い人ではなくとも、話の中盤に出くわす「道を聞いてきた女性」が恐怖のポイントを作ることは明白ですが、冒頭で「自殺者が女性である」という描写をしてしまうと話に女性が登場した時点で何となく展開が予想できてしまい、オチのキレが半減してしまいます

最後に1点、この怪談は本当に有名なお話となりますので、怪談中級者以上ならほぼ全員知っていると言っても過言ではありません。レパートリーに加える際には、語りの予習を入念に、また語る相手と状況をよく吟味してから始めるようにしましょう。