人に語りたくなる怖い話

趣味で集めた怖い話・怪談のご紹介と、話の理解や語り方について深めていくための分析録を記しております。

第1話『風呂場で口にしてはいけない言葉』- 考察と語り方

怖い風呂場

【目次】

 

概要

語り尺  :やや短い(4~5分程度)

知名度  :有名

難易度  :初級

主な話者 :特になし

 

本文

霊感の無い方でも「嫌な感じ・妙な気配がする」という場所はあると思いますが、どのようなところがあるか想像していただくと「風呂場」が挙がる方も多いのではないでしょうか。

 

例えば目を瞑って頭を流している時、妙な気配がする。恐る恐る目を開けてみても当然何事もない。皆さん一度は経験したことがあると思います。

 

某大物芸人さんによると、「あれは順番待ちをしているリンスの視線だ」といった話もありますが、それ以外にも「妙な気配がする」理由があると言われております。

 

初めに風呂場がどのような構造をしているか思い出していただきたいのですが、当然シャワーや浴槽がある、つまり水場です。ご存知の方も多いかと思いますが、昔から水場には霊的なものが溜まりやすいのだそうです。

 

また、もう1つ風呂場にあるものと言えば、大きな鏡です。こちらも古くから「神様や霊とコンタクトを取ることができるもの」として位置付けられており、現代でも数々の逸話が残されています。

 

この2つが同一空間に存在してしまう風呂場ですが、実は住宅設計の観点からも細心の注意が払われております。

 

皆さんのお家の風呂場、鏡に湯舟の水面が映らないようにレイアウトされていませんか?

 

これには理由が諸説ありまして、霊的な存在が溜まりやすいと言われる水場を鏡越しに覗いてしまうと、それらが映り込んでしまうという説や、水面は鏡が伝播するまでは「水鏡」といって人の姿を映すものとして使われており、鏡と水面が映り合って「合わせ鏡」となってしまうのを避けるためという説まであります。

 

言い伝えや迷信の類ではありますが、上記のような理由からきちんとしたハウスメーカーや古くからある設計会社が入っている場合は、余計なクレーム防止の観点からも風呂場の鏡に湯舟の水面が写らないような配置になっているのだそうです。

 

ここで本題に移ります。

そんな風呂場で口にしてはいけない言葉、それは何かというと「かごめ、かごめ」です。

 

何故、口にしてはいけないのか。

 

まず、かごめかごめがどのような遊びか想像していただきたいのですが、目隠しをした鬼の周りを「か~ご~め、か~ご~め、、」と歌いながらぐるぐると回り、「後ろの正面だあれ」の掛け声が掛かったら自分の後ろに立っている人物を当てるゲームですよね。

 

「かごめ、かごめ」が呟かれたこの状況においてはどのように当てはまるのか。水場に溜まる幽霊達にとって、霊感の無い、自分達のことが見えていないあなたは、「目隠しをした鬼」役です。

 

イスに座って頭を洗っている最中などはかごめかごめの鬼の姿と酷似しますし、自らの存在に気付いたと勘違いした霊達があなたの周りに一人、また一人と群がってくるというのです。

 

遊びが始まってしまったなら、すぐに終わらせればいいのではとお考えかもしれませんが、これは「後ろの正面」を言い当てることで鬼を抜け出せるというルール。しかし、そもそもあなたは自分の周りをぐるぐると回る幽霊達の名前を言い当てることなどできるのでしょうか?

 

風呂場で始めたかごめかごめは終わらせることが出来ないため、いつまでもあなたの周りに憑いた状態になってしまうとも言われております。

 

そういえば何故「風呂場」だったのか。水場であり、鏡があるからだとお話しました。鏡は、それを通じて人間ではないものすら覗き見ることができます。

 

そうです。

もし今晩あなたが「かごめ、かごめ」と呟いてしまったなら、目の前にある大きな鏡に、お風呂でぽつんとしゃがみ込むあなたの他に、それに群がる無数の霊達の姿が映ってしまうかもしれないのです。

 

最後にもう1度だけ言います。

風呂場で「かごめ、かごめ」を口にするのは絶対に避けてください。

 

前提・豆知識

水場には霊が出る

以下3点とそれに類する諸説が様々あるようですが、単純に水場(海、川等)を舞台とした話が多く存在するため、水場=心霊現象となっているのではないかとも推測されます。

①慢性的な渇き?

現世に現れるのは成仏できていない霊であり、満たされることのない負の感情に塗れているため、慢性的な渇きに苛まれているからという説。

②身を清めるため?

上記の霊は「不浄霊」とも呼び、身を清めるために水場に溜まるという説。

③陰の気?

風水的な観点から、「水」は陰陽でいう陰が該当し、「死」もまた同様の陰に属するため、引き寄せ合うようにして霊が溜まるという説。

上記でも触れた「合わせ鏡」が有名な話かと思われます。鏡を向かい合わせにして自分を映すと、自分の過去や未来、死に顔まで見えるという話があります。他にも神社には鏡が祀られていることが多く、鏡そのものが神として扱われるため、写真撮影すらNGとなっているところが多くあります。

かごめかごめ

子供の遊びの1つですが、歌詞の言葉運びが不自然であること、遊んでいる様や曲調そのものが不気味であることから、その由来について数々の逸話が残されています。筆者のお気に入りは「相続争いに巻き込まれた妊婦」を謡ったという説です。

「順番待ちをするリンスの視線」

ダウンタウン松本人志氏「シャンプーしている時に感じる視線は何ですか?」という質問に対して返答したひと言です。 

 

 分析・考察

「風呂場が怖い」というのは誰しも感じたことがあるかと思います。風呂に入るタイミング・状況として、

・夜であることが多い

・基本的には1人

・服を着ていない(無防備である)

・無防備な自分が映る鏡

・音が反響する

・床が滑るため、ごく僅かながら警戒状態

・天井高に対して狭い床面積(閉塞感)

等々、決定的ではありませんがそれぞれに怖さの引き金に成りえる要素が多く隠れていることがわかります。

 

また、人間が生活する上で「風呂に入る」という避けがたいシチュエーションが舞台となっており、ほぼ全ての聴者が該当し自分事化しやすいことも良いポイントです。言わずもがな、カリギュラ効果も狙った構造になっています。

 

風呂場に霊が出現し得る理由(水場)と霊感がなくても見えてしまいそうな根拠(鏡)を、「確かに」と納得してしまいそうな住宅設計の観点から補われているところも筆者が気に入っている理由です。

 

怖い話において、この理由付けが真実である必要はありませんので、「非常に疑わしいけれど、言われてみればそれなりに筋は通っている気がする」程度の説得力があれば十分だと考えております。

 

バリエーションとして、「かごめかごめ」ではなく「達磨さんが転んだ」として語る場合もあり、話の仕組みは上記と同じように進めることができます。

 

童謡の不気味さもあり「かごめかごめ」の方がおすすめですが、「達磨さんが転んだ」の方が、鏡を見たときに自分の後ろにポツンと立つ幽霊の姿を明確に想像させることが出来るでしょう。かごめかごめは複数人が群がるイメージとなるため、鏡越しに見える姿をどう連想させるかが鍵となります。

 

語る際のポイント

 この話のポイントは大きく以下の6つに分かれております。

  1. 題目:風呂場で口にしてはいけない言葉
  2. 導入:風呂場で妙な気配を感じたことありませんか?
  3. 裏付:気配を感じる理由は2つ、風呂場の構造に関連します。
  4. 本題:口にしてはいけない言葉「かごめ、かごめ」
  5. 詳細:風呂場でのかごめかごめには何が起きるか
  6. オチ:鏡に映る自分と霊

 

題目

まずは話のタイトルを伝え、相手に何の話が始まるのか聴く準備を促します。実際に語る場合は「これは『風呂場で口にしてはいけない言葉』のお話です」や「『風呂場で口にしてはいけない言葉』って知ってますか?」などと始めましょう。

導入

次に導入です。この話の場合は怪談でよくある「霊感のある友人が~」というパターンではなく、「霊感の無い人でも~」を使うことでより多くの人間が該当するような切り出し方にします。「霊感の無い人」が登場する場合、幽霊と接触してしまう根拠が強引になりがちですが、今回の場合は「水場」と「鏡」に補ってもらいます。

また、この部分に入れた「リンスの視線」について、何度か怖い話を人に語ったことのある方は経験済みかと思いますが、話している最中にツッコミどころ・ボケどころがあると雰囲気に水を差して割り込みたくなる人間が現れることがあります。今回の話は高確率で「リンスの視線」が割って入ってきますので、あえてこちらから話すことで牽制しておくと進行がスムーズになります。当然、省いても構いません。

裏付け

妙な気配がする理由の裏付けを行うパートです。このパートに説得力をもたせて話せるか否かで話全体への納得度が大きく変わります。「たしか~」や「だったような」など曖昧な表現は避け、「~なんです」と断定的に語っていきましょう。「水場」と「鏡」について、もし余力がある方は前提・豆知識で取り上げたそれぞれについての逸話を「例えば水場って~、鏡にはこんな話が~」として付け足せると尚良いでしょう。

本題

今までは「風呂場がいかに不穏な構造か」ついて、ここからがその「風呂場とかごめかごめのリンク」部分になります。相手に話の重要部分に差し掛かったことを意識させましょう。

詳細

この話のメリットは「かごめかごめ」そのものが、こちらから何も加えなくても十分に不気味であり逸話塗れの童謡であるという部分にあります。ですから、前半部分で「風呂場への気味悪さ」を印象付けることに成功していれば、あとは「かごめかごめ」の歌や遊び方を明確に想起してもらうだけで十分に恐怖が伝わります。童謡の紹介をするパートでは、少し小さい声でゆっくりと最初の部分「か~ご~め、か~ご~め、、」を歌ってみることをおすすめします。聴者がしっかりと食いついていて進行に支障をきたさないのであればフルコーラス歌っても構いません。それほどに奇妙な歌なのです。歌に込められた逸話についても調べてみると良いでしょう。

オチ

いよいよオチのパートです。無防備な自分に対して、「かごめかごめ」に釣られて集まってくる幽霊達。この時点でこの話の不気味さはかなり伝わっていますが、場合によっては風呂場にいる自分を俯瞰で見たようなイメージが湧いている方もいるかもしれません。風呂場でぽつんと座り込んでいる他人に対してすぅっと半透明の霊が集まってくる図を少し上から見ているような。これではせっかくの怪談も他人事になってしまいます。ですから「風呂場の大きな鏡に、自分とその背後に立つ幽霊が映っていた」というシーンをしっかり想像させましょう。霊の群がる俯瞰図→霊が見えてしまった自分の視界に切り替えさせるイメージです。話の最後に「絶対やるなと言われると逆に試してみたくなる」カリギュラ効果を引き出す一言も忘れずに。